生きる。佐々木大地先生。将棋への想い。棋風と魅力。まとめ

佐々木大地七段は長崎県対馬市のご出身です。

3歳のころ、お父様に教わり将棋を覚えます。対馬には将棋道場はなかったため、普段は一人で詰将棋や詰将棋をしつつ、町内会などで地元の方々と将棋を指して強くなっていきます。

ネットの普及で、以前よりも地域差が減りましたが、直接強い方々と対局できるのは、やはり大きなメリットですよね。

佐々木大地七段は、対馬にいながらにして、小1で小学生名人戦長崎県予選で優勝されます。

このあと、小学生名人戦の西日本大会に出場し、その際に立ち寄った大阪府の町道場で知り合った元奨励会の方にネットで指導してもらえることにもなり、佐々木大地七段は、さらにメキメキと強くなられていきます。

しかし、小3のある夜。
佐々木大地七段の体に異変がおきます。突然の胸痛。ご両親と対馬市の病院へ行かれます。診断結果は、心臓の病。事態を重く見られた対馬市の医師、ご両親とともに、翌朝福岡市の病院へ。福岡市の病院の医師は「将来的には心臓移植するしかない」とご両親に告げます。

そこから長期入院となります。特に最初の1ヶ月は命の危険もあったとのこと。ですが、その難局を医師、ご両親とともに佐々木大地七段は乗り越えられます。

そして、入院から1ヶ月がたったある日。医師。ご両親をも驚かせる発言を佐々木大地七段がされます。

「小学生名人戦の福岡大会に出たい」

もちろん、医師は反対します。
ですが、佐々木大地七段の気持ちは全く変わりません。（是非はともかく）診察拒否で、大会参加を訴え続けます。これを見て、お父様は「病状が深刻なのであれば、なおさら悔いなくさせてあげたい」と強烈な決意を医師に打ち明けます。そして最終的に医師も「脈拍がある数を超えたら直ちに対局中止」という条件で、佐々木大地七段の小学生名人戦の福岡大会出場を許可します。

私もです・・・。
ただ、この決断が結果的にプラスとなります。
酸素ボンベとチューブを持ち込んで出場した小学生名人戦の福岡大会で、当時小3の佐々木大地七段はたくさんの高学年の選手たちに勝利し、見事に優勝。
そしてさらに。医師も驚く奇跡的な回復をされ、入院4ヶ月。ついに退院するまで体調を回復されます。

もちろん、医師の方々。佐々木大地七段のご家族。懸命のサポートがあってのことですが、将棋愛。ありますよね、きっと。
とにかくここから佐々木大地七段とご家族の運命が本格的に動きます。

退院後も、佐々木大地七段の将棋に対する情熱はさめません。体力的なハンデがありつつも、小6のときには対馬では佐々木大地七段に勝てる大人もいなくなり、佐々木大地七段の「棋士」になりたい想いが、ますます強くなりました。

「一度失ったと思った命だから、佐々木大地七段の好きな様にさせてあげたい。」というのがご両親の決断でした。

奨励会に入るには師匠が必要です。ご両親は、「将棋の強さだけでなく、人として魅力のある方に息子を預けたい」との想いがあり、その想いが、地元長崎出身の深浦康市九段との縁をつなぎます。

佐々木大地七段の弟子入り志願の話を聞いた深浦康市九段は悩みます。棋譜を見て佐々木大地七段の素質は十分なのはわかる。しかし、奨励会や棋士としての戦いを戦いぬく体力については答えようがなかったからです。

深浦康市九段は、兄弟子の森下卓九段にも相談します。
森下卓九段は

「同情心があるのなら、弟子にするのはやめるべきだ」

感情論ではなく、冷静に判断してほしい、と深浦康市九段にアドバイスします。森下卓九段は兄弟子でもありますが、師匠である花村元司九段が亡くなってからは深浦康市九段の師匠代わりでもありました。
森下卓九段の、深浦康市九段を想っての発言です。

最後の決め手となったのは、お父様の強烈な決意を込めた発言です。

「息子を奨励会に入れるために、家族で東京都近郊に引っ越す」
「息子の病気についての責任はすべて私が取る」
「なのでどうか、息子を弟子にしてやってほしい」

佐々木大地七段の深浦康市九段への弟子入りと奨励会入りへの道筋が決まりました。

ご家族で東京都近郊に引っ越しをされた佐々木大地七段。ご両親も地元。対馬での仕事をあきらめて、新しい仕事で佐々木大地七段をサポートされます。本当に後がない状況です。

ですが、佐々木大地七段はそんなプレッシャーをはねのけます。中1で奨励会に入会後、着実に昇級・昇段をしていき、18歳で三段リーグに到達されました。

奨励会三段から四段。棋士となるためには、

方法1:三段リーグで上位2人に入る
方法2:三段リーグで次点に相当する成績を2回取る

2つの方法があります。そして、佐々木大地七段は三段リーグで次点を2回獲得しました。

・・・ですが、方法2。次点を2回で四段昇段をした場合には、昇段直後に順位戦に参加できない「フリークラス」での昇段となってしまいます。一方で方法1:三段リーグで上位2人に入る四段昇段は、C級2組に所属し最初から順位戦を戦うことができるのです。

三段リーグ最終日。森下卓九段から深浦康市九段に電話がかかります。

「佐々木くんをどうか四段にしてあげてくれ。」

深浦康市九段なら「根性を入れてもう一度三段リーグをやり直せというかもしれない」との思いから、森下卓九段はいてもたってもいられず電話をかけたのだそうです。

もともと深浦康市九段は、佐々木大地七段の意思に任せるおつもりだったそうですが、佐々木大地七段もお父様も「深浦康市九段がもう一度と言うなら、やってもいいと思っていた」そうです。
・・・とにかく佐々木大地七段の棋士デビューが決まりました。

心配されていたフリークラスから順位戦C級2組への昇級ですが、佐々木大地七段の抜群の成績も有り、1年かからず昇級されます。

そして、現在ではタイトル戦の挑戦者決定リーグや挑戦者決定トーナメントの常連となりつつあります。2023年には、棋聖タイトル挑戦者にもなりました。

ファンとしては今後も期待せずにはいられませんね！